大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和58年(行ツ)91号 判決 1988年1月21日

上告人

右代表者法務大臣

林田悠紀夫

右指定代理人

菊池信男

横山匡輝

島田清次郎

馬場宣昭

宮﨑芳久

玉田勝也

小島浩

伏屋芳昌

角地徳久

黒田晃敏

木下洋司

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大畑晋

福井秀夫

平岡眞

被上告人

加藤千代子

被上告人

加藤次郎

被上告人

加藤隆一

右三名訴訟代理人弁護士

天野雅光

主文

一  原判決中、主文第四項を除く部分を次のとおり変更する。

上告人は、被上告人らに対し、金三七二万三五六二円及び内金三六一万八三七九円に対する昭和四二年一二月二九日から、内金一〇万五一八三円に対する昭和四三年三月三一日からそれぞれ完済まで年五分の割合による金員を支払え。被上告人らのその余の金銭支払請求を棄却する。

二  訴訟の総費用はこれを一〇分し、その九を被上告人らの、その余を上告人の負担とする。

理由

一上告代理人柳川俊一、同並木茂、同野﨑彌純、同伊東敬一、同林道春、同久保田正一、同野田正弘、同桝谷勉、同秦康夫、同藤田柾、同木下吾郎、同日比文男の上告理由第一について

1  原審の確定したところによると、参考となる取引事例のうち、本件輪中堤内西端部の用排水施設敷地(約九五坪)は、約一〇坪位の水車小屋跡地のほか用排水路・水田・輪中堤敷であつたもので、本件堤防とは距離も近く、公益的な用排水施設の敷地という点で類似性があるというのであり、右認定判断は原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り、右事実関係のもとにおいて、本件堤防の所有権相当額は右用排水施設敷地(以下「基準地」という。)の取引価格を基準として算定するのが相当であるとした原審の判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。

2  たしかに、土地の利用という面からみれば本件堤防は右基準地よりその形態等において劣ると考えられるが、本件のように堤体と敷地とが一体となつて形成されている堤防そのものの客観的価値を求めるに当たつては、単にその敷地利用の面だけから評価するのは妥当でなく、その治水施設としての機能ないし有用性という面も無視できないのであつて、これらの点を考えると、結局、右基準地の取引価格について減額修正をすることなく、右価格をもつて本件堤防の所有権相当額(時点修正前)とした原審の認定判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

二同第二について

1  原判決は、経済的価値でない特殊な価値であつても広く客観性を有するものは、土地収用法(昭和四二年法律第七四号による改正前のもの。)八八条(占用権を収用する場合は同法五条三項、一三八条一項によつて準用される。)にいう「通常受ける損失」として、補償の対象となるとの見地に立つて、本件堤防の文化財的価値につき四八万円の補償を認めた。

2  しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は次のとおりである。

(一)  右土地収用法八八条にいう「通常受ける損失」とは、客観的社会的にみて収用に基づき被収用者が当然に受けるであろうと考えられる経済的・財産的な損失をいうと解するのが相当であつて、経済的価値でない特殊な価値についてまで補償の対象とする趣旨ではないというべきである。もとより、由緒ある書画、刀剣、工芸品等のように、その美術性・歴史性などのいわゆる文化財的価値なるものが、当該物件の取引価格に反映し、その市場価格を形成する一要素となる場合があることは否定できず、この場合には、かかる文化財的価値を反映した市場価格がその物件の補償されるべき相当な価格となることはいうまでもないが、これに対し、例えば、貝塚、古戦場、関跡などにみられるような、主としてそれによつて国の歴史を理解し往時の生活・文化等を知り得るという意味での歴史的・学術的な価値は、特段の事情のない限り、当該土地の不動産として経済的・財産的価値を何ら高めるものではなく、その市場価格の形成に影響を与えることはないというべきであつて、このような意味での文化財的価値なるものは、それ自体経済的評価になまじないものとして、右土地収用法上損失補償の対象とはなり得ないと解するのが相当である。

(二) 原審の認定によれば、本件輪中堤は江戸時代初期から水害より村落共同体を守つてきた輪中堤の典型の一つとして歴史的、社会的、学術的価値を内包しているが、それ以上に本件堤防の不動産として市場価格を形成する要素となり得るような価値を有するというわけでないことは明らかであるから、前示のとおり、かかる価値は本件補償の対象となり得ないというべきである。

3  そうすると、右と異なる見地に立つて本件堤防の文化財的価値につき四八万円の補償を認めた原判決には、法令の解釈適用を誤つた違法があり、右違法が判決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。この点を指摘する論旨は理由があり、原判決中、右補償を肯認した部分にかかる請求はこれを棄却すべきである。

三以上の次第であるから、原判決中主文第四項を除く部分を主文のとおり変更することとする。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、八九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官大内恒夫 裁判官角田禮次郎 裁判官髙島益郎 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷巖)

上告代理人柳川俊一、同並木茂、同野﨑彌純、同伊東敬一、同林道春、同久保田正一、同野田正弘、同桝谷勉、同秦康夫、同藤田柾、同木下吾朗、同日比文男の上告理由

第一<省略>

第二 原判決は、本件堤防の文化財的価値に対しても補償をすべきものであるとしているが、これは土地収用法八八条の解釈を誤つたものであり、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

一 原判決は、土地収用法八八条について、同条は、「損失補償の対象を、「土地相当の価格」等の純粋に客観的・経済的なもの(即ち客観的利用価値)のみに限定せず、実情に応じ、たとえ特殊な価値で、元来経済的価値のないものでも、広く客観性を有するものは、これを金銭に換算評価して補償するとの趣旨であると解すべきである。」(原判決三六丁表一〇行目から裏三行目まで)としているが、右判断は土地収用法八八条の解釈を誤つたものである。

土地収用法八八条は、土地の収用により所有者等が通常受ける損失を補償すべき旨定めているが、右にいう「通常受ける損失」とは、収用又は使用によつて生じる附随的な損失で、被収用者であれば何人でも通常の事情の下で当然に受けるであろうと考えられる客観的な経済的損失をいうのである(小高剛・土地収用法四五七ページ、美濃部達吉・公用収用法原理三五八ページ)。

すなわち、土地収用法が定める損失補償の中心は、収用又は使用に係る土地等の権利に対する補償であるが、収用は権利者の意思いかんにかかわらず一方的にその財産権を強制取得するものであるから、収用等の対象たる権利に対する補償さえなされれば十分であるということはできず、対象たる権利の収用等に伴い附随的に発生する財産的損失に対する補償もなされなければならない。したがつて、本条は土地等の収用又は使用によつて被収用者が附随的に受けると考えられる建物等の移転料や営業上の損失等の財産上の損失を「通常受ける損失」として補償すべきものとしているのであつて(小高・前掲四五六ページ)、経済的損失以外の損失を広く補償の対象としようとするものではないのである(なお、精神的損失が損失補償の対象とならないことについて、高田賢造・新訂土地収用法三六三ページ、小高・前掲四五八ページ、建設行政実務研究会・収用と補償一七三ページ、山田幸男=下出義明=園部逸夫・都市計画・区画整理・収用の法律相談四二七ページ、鈴木禄弥=高原賢治・土地収用法五〇講一五一ページ、徳島地方裁判所昭和三一年五月二日判決・行裁例集七巻一一号二八三〇ページ)。

したがつて、経済的価値を有しない文化財的価値は、土地収用法八八条による損失補償の対象となるものではないといわなければならない。

なお、原判決は、土地収用法八八条を前記のように解釈する理由の一つとして、前掲損失補償基準七条が、「文化財保護法等により指定された特殊な土地等の取得又は土地等の使用の場合において、この訓令の規定によりがたいときは、その実情に応じて適正に補償するものとする。」と定めていることを挙げている。

しかし、右規定の趣旨は、原判決の理解するようなものではない。すなわち、右基準によれば、土地等の価格の算定方法は、原則として市場価格を基準とし、これに収益還元価格、投下経費、課税評価額を考慮するものとされているが(同基準九条一項、三項)、これらはいずれも通常の利用形態にある土地等を想定したものであつて、文化財保護法等により史跡、名勝、天然記念物等に指定された特殊な土地等については、右の算定方法を適用することが適当でない場合(例えば、文化財保護法により土地が史跡、名勝、天然記念物に指定されると、その所有者の当該土地に対する所有権の行使が大幅に制限され(同法七五条ないし七七条、八〇条、八〇条の三、八一条、八二条、八三条)、当該土地の市場価格が形成され得ない場合が生ずる。)があるため、右基準七条は、右のような場合につき、例外的に、「実情に応じて適正に」補償すべきものとしているのであつて、文化財的価値を一般的に金銭評価すべきものとしているものではないのである(付言すれば、文化財保護法八〇条五項による損失補償は、現在までにその適用例はなく、同条一項の許可をしない場合には、地方公共団体が、その土地を買い取つているところ、右買取り及び同法八一条の二第一項に基づく史跡等の買取りの補助において文化財としての価値を金銭的に評価して補助した例もない。

以上により、原判決が、文化財的価値について、それが経済的価値のないものであつても土地収用法八八条の補償の対象となるとしたことは、同条の解釈を誤つたものといわなければならず、右解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

二 次に、原判決は、本件堤防について、「右堤は、一面右のように文化的・客観的な価値を内在していると同時に、他面それはまた控訴人らがもと所有権(収用時は占有権等)を有する物でもあるから、控訴人らは、堤防自体のほか、かかる価値の保有者でもあると解すべきものであるところ、本件処分は、右占用権等の収用であり、しかも右輪中堤自体のとりこわしをも意味するものであるから、控訴人らは、これにより、右価値の保有権ないし保有利益を失うものというべく、しかして右価値は上記の如く一時的・臨時的なものではないから、右権利・利益の喪失は、本件処分と相当因果関係の範囲内にあるものというべきであり、従つて右価値についての損失は、前記土地収用法八八条にいう「(権利者が)通常受ける損失」に該当するというべきである。」(原判決三八丁表三行目から裏三行目まで)としているが、右は土地収用法八八条の解釈を誤つたものである。

そもそも文化財を保存し、これを活用するゆえんは、それが歴史的、学術的、社会的観点からして社会的資産としての価値を有し、公共的な意義を有するからなのである。したがつて、文化財的価値は、いわば国民全体が等しく共有すべきものであり、たまたま、その財物を所有する者が、これを保有すべきものではないのである(日光太郎杉事件に関する東京高裁昭和四八年七月一三日判決・行裁例集二四巻四・五号・五三三ページ参照)。

ところで、原判決は、本件堤防の文化財的価値について、「同堤は控訴人ら方のもと私有堤(その後環状堤の大部分は占用堤)ではあるが、単に堤内の私有地を守り或いは単に通行の用に供する一堤防というにとどまるのではなく、多年いわゆる三川合流等による水害に悩まされ続けてきた美濃地方にあつて、その環状堤部分は遠く江戸時代の初期から(突出堤部分でも明治時代の中期から)、水害より村落共同体を守つてきた輪中堤の典型の一として、長くその効用・機能を発揮してきたもので、その特異な形状に関する築堤技術と共に教科書等にも採りあげられてきた貴重な公共的施設であるから、その歴史的、社会的、学術的価値、即ち文化財的価値は極めて高く、しかも、それは、例えば祖先伝来の土地といつた如き個人の主観的価値感情の域にとどまらず、広く社会より承認され、社会的にオーソライズされた客観的価値にまで高まつているというべきである。」(原判決三七丁表末行から三八丁表二行目まで)と判示しているが、このような内容の文化財的価値は、当該堤防の所有者あるいは占用権者の保有するものでないことは明らかであり、このような文化財的価値の損失が土地収用法八八条にいう「(権利者が)通常受ける損失」に該当するとした原判決は、土地収用法八八条の解釈を誤つたものというべく、右解釈の誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。

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